コーヒーのハンドドリップにおいて、最初に少量のお湯をかけるとプクプクとガスを放出し始めます。 これを「蒸らし」と言います。 一般的に「蒸らし」=コーヒーを抽出するための準備時間と言われておりますが、蒸らしの最中にコーヒーに何が起こっているのかまで理解している方は少ないかと思います。 今回は、蒸らしの必要性をわかりやすく解説します。 蒸らしの原理を理解することで、適切な蒸らしを考えながら調節することが可能になります!
コーヒーはハチの巣状になっている
まずは蒸らしの解説の前にコーヒーの抽出がどのように行われているのかを理解する必要があります。
コーヒー豆を挽き、粉にして、その粉の1粒を拡大すると、ハニカム構造と呼ばれるハチの巣状になっています。 ハニカム構造の内壁(コーヒー壁)にコーヒー成分がくっついています。 つまり、ハチの巣状の穴にお湯を通し、内壁にあるコーヒー成分を溶かすことがコーヒーの抽出の原理なのです。
蒸らしの役割1「ガス抜き」
まず1つ目の蒸らしの役割はガス抜きです。
ハニカム構造の空洞の中には、ガスが含まれています。
ガスを抜く前に抽出を行おうと思っても、ガスが邪魔をして空洞にお湯が入らず、空洞を避けてドリップされてしまいます。
したがってガスを抜いてお湯の通り道を作る必要があります。
蒸らしの役割2「固形→濃い液体への変換」
次にコーヒー成分(固形)にお湯を馴染ませてじっくり溶かし、コーヒーエキス(濃い液体)にする必要があります。 コーヒー成分(固形)にむやみにお湯を通しても、しっかりと抽出をすることはできません。 コーヒーの抽出は、コーヒーエキス(濃い液体)とお湯の浸透圧の原理を使用して行われます。 浸透圧とは「濃度の異なった2種類の液体を隣り合わせに置くと、お互いに同じ濃度になろうとする力」 コーヒーでいうと「濃度の高い“コーヒーエキス”と濃度の薄い“お湯”が均一の濃度になろうとする力」が働き、抽出が行われます。
蒸らしのお湯がすぐに落ちてしまうのは雑味の原因になる(重要)
ここが非常に重要なポイントです。 コーヒーの成分は酸味(深煎りでは苦味も)→甘味の順に溶けだします。 蒸らし後すぐに(抽出開始から20秒ほど)サーバーに落ちてしまった液体は、 ガスも抜けず、エキスも形成不十分で甘味・旨味が形成される前の液体。 つまり、以下のようなコーヒーが抽出されます。 ・穴にうまくお湯が通らない=薄い ・エキスの形成が不十分=酸が鋭い 勿論ですが、すぐに落ちた液体が多ければ多いほど、出来上がったコーヒーに対して、この美味しくない液体が占める割合が高くなります。 目的に応じて異なりますが、最初の一滴目は時間をかけて落とすことを心がけることで、甘みの強いコーヒーに仕上がります。 ※コーヒーの酸味や苦味は決してネガティブな要素ではありません。 しかし「甘味が伴う」ということが、美味しい酸味や苦味の条件です。 甘味がない場合、イガイガした酸味やツンとした苦味を感じます。
コーヒーの状態や狙いに合わせた蒸らしの考え方
以前、美味しいコーヒーのいれ方を徹底解説(ハンドドリップ)で紹介した ・攪拌タイプ(挽き立て浅煎り用) ・ドームタイプ(挽き立て深煎り用) ・濃縮タイプ(粉で購入したコーヒー用) の3つのレシピ(コーヒーの状態)に当てはめて解説します。 以前の記事を読まなくてもご理解いただけるように解説しますが、気になる方はチェックしてみてください。 前提としてコーヒーのガスの含有量は、 挽き立ての深煎り>>>挽き立ての浅煎り>粉の状態で購入したコーヒー となります。 コーヒーのガスは、コーヒー豆が焦げていくことで発生します。 したがって深煎りのコーヒーにはガスがたっぷりと含まれています。 反対にコーヒーは粉に挽いてしまうと、ガスが急激に抜けていきます。 粉の状態で購入したコーヒーは極めてガスが少ないと言えます。
攪拌タイプ(挽き立ての浅煎り・中煎り用)
深煎りほどではありませんが、浅煎りの豆にもガスは含まれています。 このレシピでは、浅煎りのコーヒーは短時間で抽出することで、美味しくドリップができるという考え方で紹介しています。 その為、蒸らしはできるだけ早く終わらせたいです。 攪拌タイプでの蒸らしは以下の2回です。 0:00~0:20・・・粉と同量のお湯をサッと注ぎ、ドリッパーを回し攪拌させる。(1回目) 0:20~0:40・・・粉と同量のお湯を静かに中心に注ぎ、攪拌はしない。(2回目) 1回目…ドリッパー内に衝撃を加えてすばやくガスを抜けさせる。(ガス抜き) 2回目…全体に満遍なくお湯を行き渡らせ、コーヒーエキスを作る(エキスづくり) という目的です。 1回目のお湯がすぐに下に落ちてしまうのでは?と疑問があるかもしれませんが、お湯の量が極めて少ないのでそこまで下に落ちることはありません。 少ないお湯で満遍なく粉に行き渡らせているイメージです。 2回目に攪拌しない理由は、2回目も攪拌してしまうとお湯が下に落ちすぎてしまい、酸味が強くなってしまいます。 甘味を作ることを目的に、2回目は攪拌せず、静かに注ぎ、お湯をドリッパー内に留めることを意識しましょう。 ドームタイプ(挽き立ての中深煎り・深煎り用)
深煎りの豆はガスの含有量が多すぎて、蒸らしでガスを抜ききることは不可能ですので、「できるだけガスを抜く」というイメージを持ってください。 そして、ガスは抜けきらないので、「ガス抜き」と「コーヒーエキス作り」は同時進行で行います。 先によく使われている一般的なレシピを紹介します。 「初めに全体が濡れるくらいのお湯を満遍なく注ぎ、30秒待つ」 私の意見としては、この一般的な蒸らしは深煎りには適さないと考えます。 一気にお湯の量を注いでは、ガスも抜けず、コーヒーエキスもできる前に液体がすぐに下に落ちきってしまいます。 そうなると、蒸らしの後半の時間は、蒸らしに必要なお湯の量が枯渇し、蒸らしがしっかりと行うことができません。 ドームタイプでの蒸らしは、 0:00~1:00の間で20秒おきに豆と同じ量のお湯を注ぐペースで、細いお湯でゆっくり蒸らしを行う内容でした。 このように注ぐことで、ドリッパーの中にお湯が長い時間滞在し、おおよそ40秒ほど経過したタイミングで最初の一滴目が落ちてきます。 少ないお湯の量だけれども、枯渇させずに、長い時間ドリッパー内にお湯を滞在させられるかがポイントです。
濃縮タイプ(粉で購入したコーヒー用)
先ほど粉の状態で購入したコーヒーは、ガスがほとんど抜けているということを説明いたしました。 つまりガスが微量の為、「ガスを抜く時間」は必要ありません。 このレシピでの蒸らしの役割は、「コーヒーエキス作り」の役割のみです。 濃縮タイプでは、厳密に蒸らしの時間というものはありません。 こちらのレシピでは1:30までに抽出を終え、足りない分をお湯で差し湯します。 そして最初~1:30まで、点滴になるくらい細く、最後まで同じペースで注ぎ続けます。 この方法では、おおよそ30秒程度で最初の一滴目が落ちてきます。 ガス抜きの必要がない粉で購入したコーヒーに関しては、一気にお湯を注がない限り、あまり蒸らしは意識せずに注いで問題ありません。 ドームタイプと同様に、枯渇させることの方がNGです。
最後に
このようにコーヒーの状態や、抽出の狙いによって蒸らしの方法は異なります。 成分が出し切れてない薄いコーヒーを未抽出と言いますが、未抽出のコーヒーの多くが、蒸らしが効率的に行えていないことが原因です。 今回ご紹介した3つの状態のコーヒーの蒸らしをご理解いただいた上で、 さらにハンドドリップの技術を極めたいという方は、臨機応変にコーヒーのコンディションを判断してみてください。 例えば、いつもと同じ豆を購入していても、「あれ?今回の豆は膨らみが大きいな」と感じたのであれば、それはいつもより焙煎してから日が浅い証拠です。 そんな場合は、いつも以上にしっかりとガスを抜かなければいけないと判断し、蒸らしの時間を長めに取ったり、お湯の温度を少し上げ、ガスの抜けが活発になるような調整もできたりします。 このような微調整ができるようになれれば、プロ顔負けのハンドドリップ技術と言えるでしょう! 今回の記事と合わせて美味しいコーヒーのいれ方を、かなり詳しく解説している記事もございます! まだ読んでいない方は、よろしければご覧ください。 →美味しいコーヒーのいれ方を徹底解説(ハンドドリップ)
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