「考え方」の解説編
簡単な話、美味しいコーヒー=「旨味が多く、雑味が少ない」コーヒー です。
※旨味=ポジティブな成分 雑味=ネガティブな成分
つまり、どうやったら旨味が出て、どうやったら雑味を抑えられるのかを理解することで、誰でも美味しいコーヒーが淹れられます。
先に結論を言います。
攪拌レシピ(浅煎り用)
基本的に雑味は少ないが後半に少しずつ出るので、短時間で成分を出し尽くすことで旨味>雑味になる
ドームレシピ(深煎り用)
白い泡=雑味なので、白い泡を下に落とさず抽出することで旨味>雑味になる
濃縮レシピ(粉で購入用)
1:30以降に旨味<雑味になるので、その前に抽出を終えれば、旨味>雑味になる
この理由をこれから詳しく解説をします。
ハンドドリップで旨味と雑味をコントロールするには、大きく分けて4つの要素があります。
①抽出時間
②注ぎ方
③挽き目
④湯温
この4つを2パターンに分類すると以下のようになります。
旨味と雑味の量をそれぞれでコントロールできる
→①抽出時間②注ぎ方
旨味が出たら同じく雑味も出る(比例関係)
→③挽き目④湯温
このことをご理解いただいた上で、
「①抽出時間→②注ぎ方」→「③挽き目・④湯温」 の順で説明を行います。
①抽出時間
早速ですが、時間と抽出成分の関係性 が分かる検証をご紹介します。
<検証内容>
0:00~3:45の間、一定の速度でハンドドリップを行い、
⑴0:00~0:45
⑵0:46~1:30
⑶1:31~2:15
⑷2:16~3:00
⑸3:01~3:45
それぞれの時間で抽出された成分をテイスティングして、味覚の成分を「旨味」と「雑味」の2つに絞って評価します。
この内容で、
①挽き立ての焙煎度合い別(4種)
②粉で購入のコーヒー(4種)
計8種を検証しました。
※使用する豆は以下の豆を使用しております。
・浅煎りのブレンド
・中煎りのブレンド
・中深煎りのブレンド
・深煎りのブレンド
成分の出方は豆によっても異なるのですが、複数豆をブレンドすることで純粋な焙煎度合いによる成分の出方を検証することができます。
①挽き立ての焙煎度合い別(4種)
①浅煎り と中煎り はグラフの動きが近い→浅煎り
②中深煎り と深煎り はグラフの動きが近い→深煎り
4つを2つに分けて考えていきます。
グラフから読み取れる考察結果は以下の通りです。
浅煎り :
旨味…前半にほとんど抽出される
雑味…全体的に少ないが、3:00から抽出され始める
→3:00以内で仕上げることで旨味が多く、雑味が少ないコーヒーができる。
深煎り :
旨味…前半に多く抽出されるが、後半にも抽出される
雑味…後半に多く抽出されるが、前半にも抽出される
→時間でのコントロールは難しい。
②粉で購入のコーヒー(4種)
<4種類の共通点>
・挽き立てよりも全体的に、旨味が少なく雑味が多い
・2:15~3:00の間に雑味は4になる
・1:30~2:15の間に旨味と雑味の逆転が起こる
・挽き立ては、旨味が1:30で上昇するが、粉は初めからピークを迎える。
(今回は脱線するので詳しく解説しませんが、ガスの含有量に関係します。
粉の状態のコーヒーは、蒸らしの時間が短くて済む為、最初から旨味が出やすいです。)
このことから以下のように考察します。
粉で購入 :
旨味…挽き立てよりも下降が早い
雑味…挽き立てよりも上昇が早い
※1:30~2:15の間で旨味と雑味が逆転する
②注ぎ方
〇白い泡について
注ぎ方をご理解いただく上で、「白い泡」が重要なポイントです。
白い泡の正体は「ガス」 です。
コーヒーの抽出は微粉から雑味が多く発生 します。
微粉はどれだけ優秀なコーヒーミルを使用しても発生します。
そんなコーヒー抽出において邪魔な存在の微粉ですが、白い泡は微粉(=雑味)を吸着し、ドリッパーの上部に浮き上げてくれます。
ただし白い泡はガスの含有量が少ないコーヒーの場合、活用することができません。
先に結論を言うと、白い泡とそれぞれのレシピの関係性は、
浅煎り :白い泡を活用しない
深煎り :白い泡を活用する
粉で購入 :白い泡を活用したいができない
となります。
ここからは「②注ぎ方」について「①抽出時間」と合わせて詳しく解説していきます。
❶攪拌タイプ(浅煎り用)
攪拌タイプ は白い泡を気にせず抽出を行います。
浅煎りの時間と抽出成分の関係性は以下の通りでした。
旨味…前半にほとんど抽出される
雑味…全体的に少ないが、3:00から抽出され始める
→短時間で仕上げることで旨味が多く、雑味が少ないコーヒーができる。
そもそも雑味が少ないので、白い泡を気にして丁寧に注ぐよりも、ドリッパー内を攪拌させ、短い時間で成分を出し切ることを優先します。
雑味が出てくる前に旨味を出し切るイメージ です。
このことから
「雑味が少ない2:30~3:00までの間で、旨味成分をしっかりと引き出すこと」
を目的に抽出を行います。
➋ドームタイプ(深煎り用)
ドームタイプ は白い泡を活用します 。
深煎りの時間と抽出成分の関係性は以下の通りでした。
旨味…前半に多く抽出されるが、後半にも抽出される
雑味…後半に多く抽出されるが、前半にも抽出される
→時間でのコントロールは難しい。
挽き立ての中深煎り・深煎りのコーヒーはガスをしっかりと含んでいます。
したがって白い泡で雑味のコントロールが可能になります。
つまり「時間」ではなく「注ぎ方」で雑味をコントロールします。
このことから、
「前半から発生する雑味を白い泡を使ってコントロールすること」
を目的に抽出をします。
白い泡を下に落とさず、ドリッパー内に留める方法としては、
①真ん中を凹ませすぎないこと
②白い泡を真ん中に留めておくこと(ドリッパーの縁につかないように)
の2点があげられます。
①「真ん中を凹ませすぎないこと」 はイメージしやすいと思います。
シンプルに白い泡が下へ行くとサーバーに落ちてしまうためです。
②「白い泡を真ん中に留めておくこと(ドリッパーの縁につかないように)」
はなぜ重要なのでしょうか。
これはドリッパーの構造上、縁を伝って下に落ちていくということが理由です。
このように液体は、リブというドリッパーの溝を伝って上部からも流れていきます。
中心に白い泡を留めると、リブを伝うことも防ぐことができます。
白い泡=雑味と考えて、可能な限り雑味をドリッパー内に残すことをイメージしてみてください。
❸濃縮タイプ(粉で購入用)
粉の状態のコーヒーは、「白い泡を活用したいができない」 と言えます。
それは豆から挽いて時間が経っていることにより、ガスの多くが抜けてしまっている為、白い泡は多少発生しますが、コントロールが可能なほどは発生しません。
つまり粉で購入したコーヒーは、注ぎ方でのコントロールが難しいので、時間でのコントロールをメインに考える必要があります。
粉で購入したコーヒーの時間と抽出成分の関係性は以下の通りでした。
旨味…挽き立てよりも下降が早い
雑味…挽き立てよりも上昇が早い
→1:30~2:15の間で旨味と雑味が逆転する
このことから、
「旨味と雑味の逆転が起こり始める1:30までに抽出を終えること」
を目的に抽出をします。
このレシピの大きなポイントは2つあります。
①細いお湯で注ぎ続ける
ガスが抜けているとはいえ、微量の白い泡は発生します。
しかしガスが少ないので、白い泡を持ち上げる力が非常に弱い です。
あまりドリッパー内に衝撃を与えない注ぎ方が、白い泡の持ち上げる力を邪魔しない注ぎ方となります。(攪拌はNG)
「衝撃を与えないこと」「短時間で抽出を終えること」の2つを満たす手段として、細いお湯で注ぎ続けることが重要としています。
※一度に多い量を抽出する場合は細く注いでいると時間がかかりすぎる場合があります。その場合は少し太め注いでも構いません。
1:30で抽出を終えることを優先 しましょう。
(遅くても2分以内)
②全体の約1/3をお湯で差し湯する
コーヒーの濃度=旨味の量 です。
世間一般的に「薄いコーヒー」と認識されているコーヒーは、「旨味少なく、雑味が多いコーヒー」です。
(シンプルに粉が少なすぎる場合もありますが…)
今回の場合は旨味が前半部分で多くが抽出されるので、
1分半で止めたコーヒーは、旨味の多い濃いコーヒーとなります。
旨味と雑味が逆転したあとの液体を落とすことは、
「旨味の多い濃いコーヒーを、雑味の多い薄いコーヒーで薄める」 ことになります。
それであれば「旨味も雑味もない、きれいなお湯で薄めよう」 という考え方です。
抽出時間と注ぎ方のまとめ
<浅煎りレシピ(攪拌タイプ)>
「雑味が少ない2:30までの間に、旨味成分をしっかりと引き出すこと」
→時間を軸に考えた抽出
<深煎りレシピ(ドームタイプ)>
「前半から発生する雑味を白い泡を使ってコントロールすること」
→注ぎ方を軸に考えた抽出
<粉用レシピ(濃縮タイプ)>
「旨味と雑味の逆転が起こり始める1:30までに抽出を終え、きれいなお湯で差し湯する」
→時間を軸に考えた抽出
③挽き目・④湯温
「挽き目」と「湯温」は雑味をカットし、旨味だけを抽出するなどのコントロールはできません。
旨味が抽出される量が増えると、比例して雑味が抽出される量も増えます。
このことから以下のことをイメージしてください。
旨味と雑味のコントロールができる「抽出時間」「注ぎ方」→抽出の「軸」
旨味と雑味が比例関係の「挽き目」「湯温」→「軸」に合わせて適切な環境を整える
挽き目・湯温と抽出成分は以下の関係性があります。
<挽き目>
細かいほど成分が出て、粗いほど成分が出ません。
挽き目は基本的にハンドドリップでは、中細挽き~中挽きを推奨します。
<湯温>
95℃から100℃に上がることで、旨味の量は変わりませんが雑味の量は増える為、沸騰したお湯は推奨しません。
80℃の低温抽出は、あえて使用することもあるのですが、なかなか旨味が抽出されにくいので、基本的には推奨しません。
ハンドドリップにおいて適切なお湯の温度は、83℃~95℃を推奨します。
それでは各レシピの目的に合わせた挽き目と湯温を考えていきましょう。
❶攪拌タイプ(浅煎り用)
浅煎り の抽出目的は以下の通りでした。
「雑味が少ない2:30~3:00までの間で、旨味成分をしっかりと引き出すこと」
抽出の前半部分は雑味の量が極めて少ない浅煎りは、抽出前半でいかに旨味成分を引き出せるかが重要になります。
したがって挽き目と湯温は雑味を気にせず、短時間で最大限成分が出やすい環境を整えましょう。
そのことから推奨の挽き目と湯温は、以下の通りです。
挽き目…中細挽き
温度…91~95℃
➋ドームタイプ(深煎り用)
深煎りコーヒー の抽出目的は以下の通りでした。
「前半から発生する雑味を白い泡を使ってコントロールすること」
深煎りは雑味が前半からも発生し、時間は気にせずにじっくりコントロールした抽出を行うので、無理に挽き目と温度を抽出されやすい環境を整える必要がありません。
そのことから推奨の挽き目と湯温は、以下の通りです。
挽き目…中挽き
温度…83℃~86℃
❸濃縮タイプ(粉で購入用)
粉で購入した 場合の抽出目的は以下の通りでした。
「旨味と雑味の逆転が起こる1:30までに抽出を終えること」
短時間で仕上げますが、浅煎りのように挽き目も湯温も抽出しやすい環境を整えてしまうと、雑味も抽出されてしまいます。
粉で購入した場合は、
挽き目の指定が難しい(すでに挽かれている)場合もあるので、挽き目に合わせて温度を調整 します。
①中細挽き(出やすい )の場合→83~86℃(低く=出にくい )
②中挽き(出にくい )の場合→87~90℃(高く=出やすい )
※91℃以上は出すぎてしまいます。
市販されているコーヒー粉(スーパーなどで売られているもの)は、基本的に中細挽きが多く 、挽き目を指定できる場合も、中細挽きに合わせた①の組み合わせが推奨 です。
挽き目の調整(自宅で豆を挽く方向け)
味わいの変数4つ(時間・注ぎ方・挽き目・湯温)の内、
コーヒーの味へ最も影響を与える要素は挽き目です。
ほんの少しの違いでも味へ大きく影響します。
先ほどお伝えした、撹拌タイプ(浅煎り) →中細挽き、ドームタイプ(深煎り) →中挽きというのはあくまでも指標 です。
正直これを見てもイメージしづらいかと思います。
私たちのお店では、先日から店頭とオンラインショップで希望する方には挽き目のサンプルをお渡しするサービスを開始しましたが、ある程度の参考にはなっても、見比べて厳密に挽き目をサンプルに合わせることは難しいです。
結論、豆からご自宅で挽く方は何度かいろいろな挽き目を調整して、美味しいと思ったベストの挽き目を探していただく必要があります。
ここからはベストな挽き目の見つけ方をお伝えします。
今までは挽き目を4段階(細挽き・中細挽き・中挽き・粗挽き)で表現してきました。
世間一般的にもこの4段階の分け方をすることが多いです。
しかし挽き目はもっともっと繊細です。
イメージ的には16段階くらいあると思って考えてみてください。
今回ご紹介しているレシピの挽き目は細分化した挽き目に当てはめると、
撹拌レシピ …⑤中細挽きの少し細かめ
ドームレシピ …⑩中挽きの少し細かめ
が理想となります。
このように挽き目を細分化してイメージすると、あなたの好みに合わせやすくなると思います。
好みの挽き目を探すときに注意すべきことは、「抽出時間」「注ぎ方」「湯温」は変えずに試してみてください。
挽き目以外を固定することで適切な挽き目を見つけることができます。
推奨ドリッパーの解説
ここまで読んでいただいて、やっとドリッパーの説明ができます。
まずはドリッパーの特徴や注目するポイントを2点紹介します。
①円錐形or台形
円錐形と台形は画像のように異なります。
この外見の形以外にも大きく異なる点が、底の穴です。
円錐形…大きな一つ穴
台形…小さい複数個の穴
という特徴があります。
円錐形は穴が大きい分、注ぎ方次第で抽出速度が変わります。
反対に台形は穴が小さい分、どんな注ぎ方をしてもお湯の落ちる速度は一定です。
円錐形がマニュアルに対して、台形はセミオート。
・60点の可能性もあるが100点を狙える円錐形
・80点を安定して叩き出せる台形
といったイメージです。
考え方次第で選択は変わりますが、今後も継続的にコーヒーを淹れるという方は、円錐形がおすすめ です。
②リブの長さ、深さ
リブとはドリッパーの側面についている突起です。
リブにはお湯をスムーズに下に落とす役目があり、リブを伝ってお湯が落ちていきます。
リブがあることで、ペーパーとドリッパーに隙間が生まれ、お湯が落ちやすくなる仕組みです。
したがってリブが深いドリッパーほど、お湯を伝って抽出を早めることが可能です。
各レシピの推奨ドリッパーとその理由
❶攪拌タイプ(浅煎り用)
CAFECT(三洋産業) 「フラワードリッパー」
このドリッパーの特徴は、えぐられたように深いリブです。
白い泡を気にしないのでリブを伝って落ちても問題なく、むしろ抽出速度の速さが非常に相性の良いポイントです。
➋ドームタイプ(深煎り用)
コーノ式「名門ドリッパー」
このドリッパーの特徴は、途中でリブがなくなっていること。
リブのない部分はペーパーが圧着し、上部から液体が下に落ちにくくなります。
白い泡を持ち上げるこちらのレシピには非常に相性が良いです。
尚、コーノ式は名門ドリッパーの中にもリブの長さ違いで3種類あります。
〇2人用(小さいドリッパー)のオススメは、MDN-21(リブの長さ標準)
〇4人用(大きいドリッパー)のオススメは、MDK-41(リブの長さ短め)
❸濃縮タイプ(粉で購入用)
コーノ式「名門ドリッパー」
➋ドームタイプ と同じくコーノ式が推奨です。
白い泡の発生は少ないものの、上に持ち上げる効果は微量ながらあります。
この点から考えて、上部から液体が下に落ちにくいコーノ式がおすすめです。
こちらもMDN-21とMDK-41がオススメです。
「カリタの台形」や「HARIOのV60」はダメなの?
日本で最もシェアが高い「カリタの台形」
近年カリタを追いあげる勢いの「ハリオのV60 」
どちらも非常に使い勝手の良いドリッパーですが、今回はそれぞれのレシピに対して一番オススメのドリッパーとはなりませんでした。
カリタ…先ほどの説明通り、セミオートのような台形型は、80点を安定的に出すドリッパーです。
今回の記事は、ご家庭でも100点のコーヒーを楽しんでもらいたいという考えで書いておりますので、それぞれのレシピの推奨にはなりませんでした。
V60…リブが上部まであり、フラワーよりも浅いです。
位置づけとしてはそれぞれのレシピの2番手的な存在で、汎用性が高いドリッパー です。
価格に関しては、フラワーやコーノ式よりも安価であり、手に入りやすいので、最初の一台にはオススメ かもしれません。